組織社会化の欠如が過労自殺を引き起こす


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先日、大手広告代理店電通の社員だった24歳の女性が長時間労働の結果自殺し、そのことが労災に認定されたという報道がありました。

 

電通は1991年にも自殺者を出しています。

1990年に入社した新入社員が、長時間労働の結果、1年後に自殺に至った、という今回のことと同じような事件がありました。
このときに初めて長時間労働によるうつ病の発症、その結果としての自殺…という関係性が認められ、会社側が1億6千万円支払うことで和解しました。

いわゆる電通事件です。

この事件を機に、産業精神保健の分野は発展していきました。

 

今回の24歳の女性の件では、月の残業時間が100時間を超えていた とのことでした。
これに対し、「残業時間100時間くらい普通」…という激しい意見もあちこちで聞かれています。

悲しいことにこれが日本の現状です。

確かに、「100時間」 という時間数だけで見ると、「自分の会社でもそれくらいの残業はしている」という会社は多いでしょう。
医療機関や福祉施設でも同じくらいの残業時間を耳にするところもあります。

これが手の届く現実的な時間数だからこそ、危機感が高まっているようです。

 

仕事というのは、能動的なものでなければ、辛いものです。

自分がやりたくてやっている10時間の仕事と、やらされてやっている10時間の仕事では、
それぞれが感じる疲労感や苦痛感はまったく違います。
けれども、入社1年目や2年目の職員はまだ仕事を覚えている段階なので、能動的に動ける仕事はほとんどありません。

組織の中で居場所を得て、自分がやるべきことを見出し、自分の役割を獲得して組織に適応していく、
そのプロセスを「組織社会化」といいます。
このプロセスにはおおよそ3年かかると言われています。

しかし、人的余裕も、時間的余裕もない現代の環境では、新人はすぐに「一人前」になることを求められます。

「組織社会化」のプロセスを無視して業務を進行せざるを得ないのです。

入職してすぐに1人で仕事を任され、多くの業務を担わされる。
1年目であっても、3年目であっても、患者さん、利用者さんから見れば「同じ」という意識と指導のもとで、負荷がどんどん重くなっていく・・・。
きちんとした指導も育成もないまま、叱責だけが与えられ、それが部署の悪しき風習となって、ハラスメントが慣習化されていく…。

 

こういった悪循環があちこちで行われています。

 

早期にこの「組織社会化」を図るためには、上司が部下の、先輩が後輩の、良き「伴走者」になることです。
指示をするのではなく意見を聴く、アドバイスを与えるのではなく考えさせる質問をする、ダメ出しをするのではなくトライしたことを承認する。

時間がかかることのように見えて、長い目で見ると、これがもっとも早く効果的なアクションです。

 

希望を胸に入職してくれた貴重な人材を羽ばたかせるか、埋もれさせるかは上司の力にかかっています。

 

2016-10-31 | Posted in 新着情報, 組織と個人とキャリアComments Closed 

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