高齢者の定義変更がもたらす意味とは
先日、日本老年学会が「高齢者の定義を75歳以上にしてはどうか」という提言を行いました。
現在、高齢者とは「65歳以上の者」と定義されています。
しかし、医療の進歩や生活スタイルの変化で、健康的に生活できる期間が延びていることは周知の事実です。このことから、「高齢者」とする年齢を見直すべきだとしたものが、今回の提言です。
たしかに、20年前と比較すると、現在の60代は活力があります。
女性向けのファッション誌では、ティーン専門誌が次々と廃刊になる中、シニアレディ向きのものが増版されています。
旅行業界でも、シニア向けのツアーパックが多く特集され、リタイア後の多くのシニア層が参加しています。
看護・介護業界では、定年退職後のセカンドキャリア支援が推し進められています。
施設や訪問の現場でも、60歳を超えたシニアスタッフと呼ばれる人たちがきびきび働き、無くてはならない存在になっているところが多々あります。
アクティブシニアという言葉が当たり前のように浸透してきました。
しかし、この社会的な動きとは別に、この背景に見えてくる大きな問題点があります。
労働力人口の不足です。
総務省の統計によると、現在の就業者数は約6500万人。前年度と比較すると約70万人増加しています。
労働人口が増えているのはシニア層の就労者数が増えているからです。
18歳から60歳の本来の稼働人口は減少しており、鬱や引きこもり、介護離職など問題で、働けるはずなのに働いていない人たちの数が増えています。
労働市場を統括する労働局では、年々「若年者」の定義が引き上げられ、現在は「45歳以下」を若年者と定義し、様々な支援策を講じています。
しかし、地域包括ケアの中でシニア世代の働き方を考えると、多くのメリットが見えてきます。
地域包括ケアであげられている「住まいと住まいかた」
その地域に住む元気な人たちが、同じ地域の介護を必要としている人へ労働力を提供する。
「地域」に視点をあてたケアの在り方を考えるうえでは、シニア世代の労働力は大きな力となります。
その地域独特の話題や、そこに住む人たちならではの関係性の中で、「ご当地ケア」と言われる、地域独自のケアシステムを創り上げていけるのではないでしょうか。
IT化が進み、スピードと効率化が最重要視されてきた2000年以降、シニア世代の働き方は「古いもの」として否定されてきました。
しかし、人と人が向き合う仕事においては、「スピード」が遅くても、相手に安心感を持ってもらえるように不器用にかかわること、「効率的」でなくても、一人ひとりの顔を見た付き合いを続けること。
そんなアナログなことが結果として長い関係性を築き、成果をあげてきました。
これまで広く社会で活躍してきたシニア世代の知識を古いものとして切り捨てるのではなく、これからは、その経験を地域で生かしてもらう、そうすることで双方が活躍できる地域を築いていくことが、求められる社会なのではないでしょうか。