人をケアするということ2


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前の記事の続きです。

前回も書いたように、父が入所していた施設は山間の小さな小さな有料老人ホームでした。そこは、施設長さん自ら夜勤もするし、おむつ交換もします、という施設でした。
「みんな家族」 ということをコンセプトにしている、本当にアットホームな感じのところで、雑談や笑い声の中、ゆっくり、ゆっくり時間が過ぎる…そんな空間でした。
お料理も、その日の夜勤のスタッフさん2名が作る家庭料理です。たとえミキサー食であっても、1人1人お膳に乗せて、陶器の器で出してくれました。
入居者本人だけではなくて、私たち家族にも、1人1人心を配ってくださいました。

私は、仕事柄、たくさんの施設や病院と関わっています。
高齢者ビジネスが横行している今、あちこちで訪問系サービスや入居施設が乱立しています。新しい外観や、きれいな宣伝文句ばかりが目に入り、所見で良しと心奪われる家族もたくさんいらっしゃるでしょう。けれども、目の前にいる高齢者1人1人をきちんと見てくれるところが、実際のところ、どれほどあるのか、私には疑問のままです。

田舎の泥臭い…(という言い方は乱暴ですが…)施設ではありましたが、こんなにも利用者を1人の人間として看てくれる施設は初めてでした。

この施設は、以前に一度、市からの立ち入り調査を受けています。
認知症で徘徊をしようとした大柄な男性入居者さんがいたそうです。少し足の悪い介護士さんが、徘徊するのをなだめようとしました。そのときに、その利用者さんは抵抗して暴力をふるいそうになり、バランスを崩し、倒れそうになりました。小柄な女性の介護士さんはそれを助けるために一緒に倒れました。彼女は肋骨を骨折をして、その利用者さんもどこかを軽く打撲したそうです。

それが、「虐待」という理由で調査になりました。

市の調査員から様々な質問を浴びせられる中、施設長さんは質問してみたそうです。

「あなたがその場にいたらどうしていましたか?」

調査員はこう答えたそうです。

「暴れはじめたら逃げないといけないでしょう?」 と。

施設長さんは、こう答えたそうです。

「逃げたらもっと利用者さんはもっと大きな怪我をしています。私たちはそれを防がないといけない。自分が怪我をしても、利用者を守っているんです。私はケアにあたったスタッフに落ち度があったとは思わない、むしろ誇りに思う」 と。

介護スタッフの離職率が高い理由の一つ。

それは、守ってくれる人がいないこと です。

介護士が行った行為、ケアをほめてくれる人は実際はほとんどいません。それどころか、少しクレームがあると、それを追究され、責められます。何が正しいことなのか、自分がそんなに悪いのか、それがわからなくなってきます。上に立つ人が身を挺して守ってくれる、そういう環境がないのです。
そういう環境で働いているスタッフは、上司を信頼しています。何かあれば守ってくれる、私を信じていてくれる、そういう意識があるからこそ、利用者にも積極的に関わることができるのです。

これが、この施設にお願いして良かったと思う理由の一つです。

2016-05-12 | Posted in 組織と個人とキャリアComments Closed 

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