高齢化社会・介護者問題を考えるための1冊「ロストケア」
今さらながら…ですが、福祉業界の話題作 「 ロストケア 」読みました。介護に関わる社会問題 をテーマにしたミステリーです。
そして、以前掲載した「ケアラー」問題に通じる内容でもあります。
ものすごく簡単に、かいつまんでストーリーを伝えると、家族の負担の高い、重介護者が次々と殺害されていくというお話です。ミステリーなので、これから読まれる方のために、これ以上は控えさせていただきます。
本の内容はとてもシリアスで考えさせられるものです。
介護保険の創設から、相次ぐ介護報酬の引き下げ、民間企業の福祉ビジネスへの参入、市場化する介護業界、格差社会、高齢者虐待…。医療・福祉業界に関わる者にはとても身近なトピックを背景に物語が進んでいきます。
私的な話になりますが、以前、海外から帰国して、病院に復職したとき、日本の空気感が変わっていることに気づきました。
ちょうど震災の翌年でした。それがきっかけになっていたのかどうかはわかりません。しかし、社会全体に余裕がなくなっているような感じがしたんです。
病院で働いていると、その変化をひしひしと感じました。
思うようにならない怒りを医療スタッフにぶつけてくる人、「忙しい」「休めない」と、病院にまったく顔を見せない家族、連絡もなしに急に出勤しなくなる医療スタッフ、余裕なく、早口で連絡事項のみ伝えてくる行政職員…。
もちろん、震災の前も、同じようなことはありました。しかし、そのときとは、まったく違う空気感が漂っていました。誰もに余裕が無くなっていて、みんながみんなギスギスしている、お互いを思いやる余裕はなくて、少しのほころびから一気に爆発するような、そんな、脆い社会になっているように感じました。
そのときと同じ感覚を、この本の中に感じました。
家族を殺された介護者は、その瞬間、悲しみや怒りに襲われる前に、「救われた」 と感じる。
疲弊し、生活も自我も破綻しそうになっている介護者たちは、暗闇の中に光が差し込んだと感じる。
捕まった犯人は、罪を自覚し、後悔を持たせようと試みる検事にこう言いました。
「検事さん、あなたは安全地帯にいるからそんなことが言えるんですよ」
介護報酬を決める役人たちも、テレビや新聞で介護論を唱える評論家たちも、「安全地帯」にいるから、きれいなことが言えるんだ。
これは、事実です。
もっと言うと、私自身も、「安全地帯」にいるんでしょう。
ただ、私は、自分が「安全地帯」にいることを知っています。
それがとても細く、狭く、脆い場所であることも、少しのことで、転げ落ちてしまうような場所であることも、そして、そこにしがみつこうとしていることも、知っています。
大きく取り上げられない高齢者虐待は今この瞬間もどこかで繰り広げられています。
何か1つが取り上げられると、見せしめのように叩きのめされる世の中です。
虐待をしてしまう介護者、介護スタッフのことを考える余裕もないままに、人の感情をこれほどまでに追い詰めてしまう社会システムは、今なお継続しています。
そして、それは高齢者介護に関わらず、より多くの社会問題へ波及しています。
解決の糸口が見いだせない社会システムと個人感情の問題が、交差しながら進んでく、とても興味深い本でした。
まだ読まれていない方、興味のある方、おススメです(^_^)