「教えないから人が育つ」病院人材育成手法(3)
先般から、病院における最適な人材育成手法の基本を説明しています。
今回は、皆さんの中で、分かっていても実践できないこと、ナンバーワンであろう「愚者の演出」について取り上げます。
愚者の演出とは
愚者の演出とは、言葉通り、「愚か者のように振る舞って行動する」ということです。逆の演出は、「賢者の演出」ですね。自分は大した人間ではないし何も知らないから、大丈夫、信頼しているあなたに任せますよ。こんな感じです。
病院ではヒエラルキーがしっかりしています。医師の代表である、理事長や院長、そして医局。そこから資格職がつながっていきます。病院の専門性によって、どの部署が強いのかは異なりますね。
これまで色々な病院を見てきましたが、「あー、良い運営しているな」、「なんか皆が働きやすそうに仕事しているな」と感じる病院は、この上位のヒエラルキーの方々が「愚者の演出」を徹底している組織でした。病院は医療を行う組織です。間違ってはいけないことが多いので、患者さんに対して、医療や看護の専門技術で愚者を演じる必要はありません。そんな病院行きたくないですよね。
ヒエラルキー構造からの脱出
病院で働く限り、この構造を前提に皆さん仕事しています。結構気を使うものです。資格職をもたない事務職は気を使ってばかりの毎日です。言葉選びも大変です。ヒエラルキーを助長するような「医師が一番」みたいな考えを病院経営のトップがしてしまうと、もう現場で支えているスタッフは仕事しにくくて仕方ありません。こんな構造から脱出した組織から、良い人材が集まってきます。そうです、よく言われるマグネットホスピタルですね。経営者としては、給与を重視しない人材に集まって欲しいです。そのために、病院経営者としては、「愚者の演出」が必要です。
情報共有のために
あらゆる立場において、偉そうにするより、アホウをあえて演じる方が、現場の力がつき、自ら学ぶ力が発揮されるというものです。何でも偉そうに、こうあるべきだと言い続けてしまうと、さて、あなたの部下はどういう成長をするでしょうか。そうです。何も考えない人材になってしまいます。権限を持っている人が発言してしまうと、それに必ず誘導されます。というよりも、あなたの意見はおそらく正しいので、それ以外答えが出せない状況です。そんな事が毎日続くと、現場の人が考えない習慣がついてしまいます。そして、現場から情報もあがってきません。だって、上司のほうが賢いという前提であれば、現場は考えないほうが楽ですから。怖いですよね、情報共有したいと思っているのは上席だけで、皆さんは情報共有なんてしたいと思っていないのですから。
愚者の演出の難しさ
経営者トップが自分自身を愚者として演出する、というのは日本流のマネジメントの強みでした。それにより社内は活性化し人材が育ってくるのです。しかしながら、言葉では簡単なことではありません。実現するためには、病院内で圧倒的信頼で支えられ、確固たる自信がないと「愚者」にはなり切れません。
トップが「賢者の演出」に陥るケースは主として二つあります。一つは創業者が小さい組織をひとりで切り回していて、組織が大きくなってもそのままのスタイルを続けてしまうケース。もう一つは、雇われ者がトップになって、自らの権威と優位性をスタッフに示さなければならないと感じたときです。永続的な病院経営を実現するには、この次のステージにチャレンジしなければいけません。いずれ、自らの進退を考えた際に必ず遭遇する場面です。
上司として部下を指導・監督するという感覚ではなく、「あなたは専門家だから、私に教えてください」というスタンスが大切です。たとえ相手が新入社員であってもこの姿勢を一貫すると良いでしょう。尊敬するトップからこのような態度で迫られれば、応えるのが優秀なスタッフです。